東京地方裁判所 平成9年(特わ)3521号
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官大圖明及び弁護人横地正義各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一〇月及び罰金一三〇〇万円に処する。
右罰金を全額納めることができないときは、金二五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都杉並区桃井一丁目一九番五号(平成五年一二月二四日以前は同区桃井一丁目一二番一六号)に居住し、同区桃井一丁目一二番一六号において、「株式会社東京測機製作所」の名称で測量機器及び建設資材等の卸売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右名称の使用を継続するなどして、自己に帰属する事業所得がないかのように装うとともに、事業に係る収入を他人名義の預金口座に入金するなどしてその所得を秘匿した上、
第一 平成四年分の実際総所得金額が七四二八万〇六〇二円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右所得税の納期限である平成五年三月一五日までに、所轄荻窪税務署長(同税務署の所在地は、同区天沼三丁目一九番一四号)に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の所得税額三二六八万一五〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 平成五年分の実際総所得金額が五二七八万四八九三円(別紙2修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右所得税の納期限である平成六年三月一五日までに、前記荻窪税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の所得税額二一九一万二五〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ
第三 平成六年分の実際総所得金額が二〇〇六万五三一四円(別紙3修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右所得税の納期限である平成七年三月一五日までに、前記荻窪税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の所得税額四五三万八八〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
(注) 以下の甲、乙に続く数字は、当該証拠の証拠等関係カード(検察官請求分)甲、乙での番号を漢数字で表記したものである。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(乙一ないし一〇)
一 德田智明及び德田通子の検察官に対する各供述調書
一 原和子の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、期首商品棚卸高調査書、仕入高調査書、期末商品棚卸高調査書、租税公課調査書(二通)、販売手数料調査書、荷造運賃費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書(甲一四)、消耗品費調査書、減価償却費調査書(二通)、給料賃金調査書、地代家賃調査書、賃借料調査書、雑費調査書、不動産収入調査書、損害保険料調査書、支払利息調査書、社会保険料控除調査書、配偶者控除調査書、扶養控除調査書及び基礎控除調査書
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲八、三五、四〇)
一 登記官作成の登記簿謄本
判示第一及び第二の各事実について
一 大蔵事務官作成の除却損調査書
判示第一及び第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の福利厚生費調査書
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の広告宣伝費調査書及び修繕費調査書(甲二六)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の受取利息調査書
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の建物除却損調査書
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも情状により同条二項を適用した上、各所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法(平成七年法律第九一号附則二条一項により同法による改正前の刑法を指す。以下同じ)四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金一三〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は、判示のとおり、測量機器等の卸売業を営む被告人が、自己に帰属する事業所得がないかのように装うとともに、事業に係る収入を他人名義の預金口座に入金するなどしてその所得を秘匿した上、三年間にわたって確定申告をせず、合計五九〇〇万円余の所得税を脱税したという事案である。
右のとおり、その脱税額は少なくなく、また脱税率も無申告であるから一〇〇パーセントに及んでおり、被告人の脱税意思の強固さ及び納税意識の希薄さは明らかであって、本件の犯情は悪質である。被告人は、本件の動機について、自分の家族に少しでも多く財産を残したかったなどと供述しているが、国の財政が国民の公平な税負担の上に成り立っていることに思いを致せば、いかなる理由にせよ不正な行為で納税義務を免れて蓄財を図ることなど到底許されるところではなく、全く酌量に値しない動機である。以上の諸事情を併せ考えれば、被告人の刑事責任は重いというべきである。
他方、被告人は本件発覚後は事実を素直に認めて捜査等に協力し、反省の態度を示していること、本件に関してその後修正申告をして、本税及び附帯税等を既に完納していること、本件発覚後は自己の営む事業について株式会社を設立し、経理の明瞭化を図っていること、これまでに前科はないこと、なお、主たる所得の秘匿工作は収入の他人名義での預金にとどまり、さして悪質とまではいえないことなど被告人のために酌むべき事情も認められる。
そこで、以上のとおりの一切の事情を総合考慮し、被告人を主文の刑に処した上で、懲役刑についてはその執行を猶予するを相当と判断した。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 懲役一〇月・罰金一五〇〇万円)
(裁判官 阿部浩巳)
別紙1
修正損益計算書
自 平成4年1月1日
至 平成4年12月31日
德田数夫
<省略>
別紙2
修正損益計算書
自 平成5年1月1日
至 平成5年12月31日
德田数夫
<省略>
別紙3
修正損益計算書
自 平成6年1月1日
至 平成6年12月31日
德田数夫
<省略>
別紙4
ほ脱税額計算書
德田数夫
平成4年分
<省略>
德田数夫
平成5年分
<省略>
德田数夫
平成6年分
<省略>